インプラントの事件、訴訟

img13.gif東京都保険医協会の調査では、インプラントを導入している約20%の歯科医において、患者との間に何らかの形でトラブルが生じているとのこと……。

これがインプラント治療そのものの是非を語るための要因にはなりませんが、こうした事件が起きる背景は知っておきたいものです。




インプラント使い回し事件について

2010年1月19日、豊橋市歯科医師会(愛知県)が厚生労働省・記者クラブで記者会見をしました。

この会見上では、豊橋市内の歯科クリニックが使用済みのインプラントを別の患者に使い回すといった不正治療を行っていた、と発表。

このクリニックでは患者に埋めたインプラントが骨に定着せず抜けた場合などに、滅菌して保管し他の患者に使用していたということでした。

2009年11月、当時同クリニック勤務の歯科助手が使い回し用に院内保管されていたインプラントを豊橋市医師会に持ち込み、専門家に鑑定を依頼。

結果、ヒトの組織が付着していることが確認され、使い回しの可能性が濃厚であると裏付けられました。

厚生労働省によると、インプラントの使い回しは、医療器具などの適正な使用を医療関係者に義務づける医療法違反にあたるといいます。

会見にも出席した70歳代女性は、同意していないのに23本の歯をインプラントにされ最終的に400万円以上の治療費を支払ったが、その後、頭痛や歯ぐきの痛み、唾液が十分に出ないなどの異常があり「術後、体に不調がない日は1日もない」と訴えました。

会見の席で豊橋市歯科医師会は、このクリニックを詐欺・傷害の罪で刑事告発することも辞さない構えとしていましたが、その後、一部の患者達も健康被害と苦痛に対する慰謝料を求めて訴訟を起こしています。

また、疑惑をもたれた歯科医師は自殺を遂げるまでに至っています。

インプラント使い回し事件が生まれる背景

この事件は、日本の歯科医療関係者を震撼させました。これをきっかけにインプラント治療への懐疑的な意見や、利益優先主義の歯科経営への批判が噴出することになります。

コンビニより多いと言われる65、000軒に及ぶ歯科医院の乱立。保険治療の一部負担金の引き上げ。それに伴う患者数の減少。保険点数の引き下げ。不況での自費収入の減少。歯科医師の収入減……等々、歯科医療は暗い話題ばかり、閉塞的な状況です。

このような状況下で開業医の中には、それぞれ休日診療や診療時間を夜遅くまで延ばすことを余儀なくされている者も多く、また、健康保険が適用されない自由診療で利益を産み出すことが過当競争に生き残る術であるという風潮が顕著になっているようです。

インプラントには保険が導入されていないため、歯科医が各医院の実情に見合った価格を自由に設定できます。こういったことを背景に、なんとか自由診療の割合を増やそうとインプラントの講習会に1〜2回行っただけで、いきなり患者さんにインプラントを薦める先生や、適切な治療次第では抜歯しなくても済む歯を抜いてインプラントにしようとする先生もいるそうです。

こうして、激安インプラントの類に代表される苛烈な価格競争が生まれ、最近では“一本10万円”を謳った所も登場しました。まさにインプラントブームともいう活況のもと、値引き合戦は結果的にインプラント治療の質の低下や不正医療を招く原因になっているといえます。こういう中で起こったインプラント使い回し事件からは、まさに日本の歯科医療の厳しい現状が垣間見えるようです。

かといって、即、インプラント治療そのものが悪いということには決してなりません。もちろんインプラント業界では、骨にしっかりと結合させること、また感染を防ぐ観点からも、再使用・再滅菌は禁じられております。全体からみれば使い回しをするような医院はごく一部なのでしょう。インプラント自体の良し悪しと歯科医療の窮状を混同して語ることや、インプラント治療への偏見は拭い去らねばなりません。